糖尿病網膜症が原因による失明は、重い視覚障害者の2割に達します。網膜症は腎症、神経障害とならぶ糖尿病の3大合併症のうちの一つで、目の奥の網膜が傷んで機能が低下する病態です。進行過程は、3段階に分けられるが自覚症状はほとんどありません。ここでは、糖尿病網膜症についてご説明いたします。
<糖尿病網膜症の病期>
糖尿病網膜症は糖尿病により、高い血糖の状態に長い間血管がさらされると、徐々にもろくなり、血管が破れて出血したり、血漿など液体成分が漏れて出たりします。毛細血管が張り巡らされた網膜に障害があらわれるのが糖尿病網膜症です。病期は単純糖尿病網膜症、増殖前網膜症、増殖網膜症と3段階に進みますが、この間自覚症状はほとんどありません。
個人差もありますが、糖尿病コントロールの指標となるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が8台(正常は5.8以下)の状態が10年~15年持続すると網膜症を発症するといわれています。逆に6.5以下であれば(欧米では6.9)発症しないというデータが報告されています。
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<単純網膜症>
・網膜の毛細血管がもろくなります
・点状および斑状出血
・毛細血管瘤
・硬性白斑(脂肪・たんぱく質の沈着)
・軟性白斑(血管が詰まってできます)
自覚症状なし |
<増殖前網膜症>
・軟性白斑が多くみられます
・血管がつまり、酸素欠乏になった部分がみられます
・静脈が異常にはれて、毛細血管の形が不規則になります。
自覚症状なし |
<増殖網膜症>
・新生血管が硝子体にみられます
・硝子体出血
・増殖膜の出現
・網膜剥離
・失明に至ることがあります
視力が極端に低下します |
・血糖値が下がれば、病期の症状が自然に消えることもある。
・運動や食事、薬による糖尿病治療が主となります |
・血糖値のコントロールと合わせて、酸素欠乏状態に陥った網膜にレーザー光線をあてて焼き固める手術をし、新しく血管が生えてくるのを予防します。 |
・網膜剥離や出血を起こした場合は、硝子体手術を行います。
・網膜光凝固とあわせ、抗VEGF抗体の硝子体注射を行うことがあります。 |
<糖尿病網膜症の検査>
視力検査、眼圧検査、眼底検査を行い、網膜症の程度を判断するために蛍光造影眼底検査(FAG)を行います。また、視力低下の原因となる黄斑症に対してはFAG検査、OCT検査を行います。
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左上:蛍光造影眼底検査写真
造影剤を血管に注入して病変部からの造影剤の漏れ、血液無灌流域の状態をみます
左下:正常黄斑部のOCT画像
下:糖尿病網膜症による黄斑部浮腫(みずぶくれ)のOCT画像
増殖網膜症の75%で併発し、網膜の黄斑部に血管から染み出た血液の液体成分がたまってむくみを起こします
このような状態では、極端に視力が低下し、視力の回復が難しくなりま |

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<糖尿病網膜症の治療>
前述したとおり、病期によって治療法は異なります。網膜にレーザーを当てる網膜光凝固術は、早期の場合は8割のひとに有効ですが、治療の時期が遅くなると有効率は5~6割低下します。また、網膜症の状態によってはレーザー治療をすることにより、視力低下を引き起こす黄斑部浮腫を悪化させることがあります。
目の中に出血を起こした場合(硝子体出血)や網膜上にできた増殖膜が縮んでおこった網膜剥離は硝子体手術治療の対象となります。手術では硝子体の出血や増殖膜を吸引し濁りを取り除き、シリコンオイルを注入することがあります。簡単な手術ではありませんが、近年成功率が高くなり5-6割の人が矯正視力で0.5以上に回復するようになりました。技術的な進歩により、手術に用いる針の太さも極細になり、手術後に目を縫わなくてよくなるなど手術後の負担も軽減されてきています。
最近では、血管が新しくできるのを防ぐ抗VEGF薬(アイリーア、ルセンティス)を注入する方法を併用したり、血管収縮を減らして血圧を下げる薬を使う方法も新しく研究されています。
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網膜光凝固術
状態の悪い網膜をレーザー光線で焼き固め治療します。外来診療にて日帰りで行うことができますが、1回の治療で網膜全体にレーザー光線をあてると、黄斑部浮腫をおこすことがあり、通常は3~4回に分けて治療を行います。 |
抗VEGF抗体
抗VEGF薬(アイリーア、ルセンティス)を硝子体中に注入し血管新生を予防します。 |
硝子体手術
目のなかに器具を要れ、出血や増殖膜を取り除きます。豊明市にある藤田保健衛生大学病院がこの手術を全国で一番多く手がけています。 |
当院にてルセンティス、アイリーア、バビースモ(抗VEGF)眼内注入療法行っております。網膜光凝固術との組み合わせにより、より効果的に糖尿病網膜症による黄斑部浮腫、網膜静脈枝閉塞症による黄斑部浮腫を効果的に治療し視力の向上を目指します。
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